エピローグ


 この日、木暮は三瓶を離れ、東京に戻っていった。
木暮は、暗い山陰の海岸線を走る夜行寝台特急・サンライズの車内で、先ほど別れ際に並木と交わした言葉を思い、目を閉じた。
その会話は、
「疑問を感じても、証拠もないし、向居のアリバイに危うく騙されるところだったが、台風で救われた」
「そうだね。ミランダは、二回も台風によって自分を殺害した犯人を追いつめた。“自然の力”による偶然…いや偶然ではないかも知れない。僕は、自然の持つ計り知れない不思議な力を感じたよ。そしてあの火山灰が、憎むべき殺人者を告発してくれたと思っているんだ」と…。

一週間後、松田誠一と妻・麗子の姿が、九州の日豊本線を走る車中にあった。
この南九州行きは、麗子の提案だった。
事件の解決をみたとき、麗子は誠一にこう言った。
「あなた…ミランダさんに錦江湾を見せてあげましょう…。私たちにはそれしか出来ないけど…」と。
誠一は、妻のその言葉で思い立ったのだった。
二人の左手に静かな海面が続き、その遙か向こうに、浮かぶような桜島が見えた。
桜島は、鹿児島の抜けるような青空に噴煙を東にたなびかせている。
麗子は、その噴煙をじっと見つめる誠一の膝に手を置き呟いた。
「この錦江湾に、あの火山灰を運んだ火山があったのね…」
「そうだね…。二万二千年もの遙か昔にね…」
誠一はそう呟くと、ポケットから一枚の写真を取り出して窓辺に置いた。
二人の目は、写真と海と噴煙を交互に見つめていた。
そして、写真の中で微笑むミランダに誠一は静かに問いかけるかのように言った。
「…これでいいかい?」と…。
そして、
「ミランダさん…これで許してね…」と呟く麗子の目は涙でかすみ、あとはただ小さな嗚咽が漏れ出るだけであった。

やがて、列車の進行方向前方に姶良の町が見え始めていた。

本日で、「爪の記憶」を終了いたします。
ご愛読いただきましてありがとうございます。

現在、「女囚の遺言」を連載いたしております。
今後とも宜しくお願い致します。
 
自称 作家  感謝を込めて